最も効果が高かったセールス手法


 営業マンであれば最も売れるセールストークの手法が気になるはずだ。あなたが知的好奇心が強いのであれば、60種近くある細かいセールステクニックの組み合わせを全て学ぶのも良いかもしれない。ただ、企業はそこまで時間をかけて育てる余裕はない。無尽蔵に資本がある訳ではない以上、可能な限り短時間で優秀な人材に育てたい。ではどうすれば短時間で優秀なセールスができる人材に育てられるのだろうか?どうすればそんな方法が見つかるのだろうか?


 実に簡単である。たった4ステップしかない。それは次の通りだ。


  1. 世界中の優秀な営業部10,000人分のデータを集める

  2. 年齢、性別、経験年数、知識、スキル、態度など55個の項目を一人一人から集め、成績の高さと最も相関する項目は何かを洗い出す。

  3. 最も相関する項目を高い順に並べ、それらを体系化し技術として学習できるようにまとめる。

  4. 体系化されたセールス手法を実際に試して、既存の方法とどの程度効果に差があるかを検証する。


 これだけ聞くと、「こんな手間、出来る訳が無い」と怖気付いてしまう。どうやって10000人分のデータを集めれば良いのか、どのように統計処理を行えば良いのか分からない。まさに「言うは易し、行うは難し」という言葉がピッタリだ。


 しかし、世界は広い。上記の手続きに則って2009年に実際にデータを集めたコンサルティング会社がある。もともとは研究内容を非公開で依頼者にのみデータを明け渡していたのだが、あまりの有効性の高さ、そして売名効果の高さも相まって2011年に本を出版した。その思惑通り、一気にこのコンサルティング会社は講演会や仕事の依頼が増えた。

 ここで唯一懸念点があるとすれば、全く査読をされずに出版されたことだ。これに関しては元から論文として出版する予定がなかった背景を考えれば仕方がないのかもしれない。


では早速そのデータの中身と発見を見ていこう。



検証1:顧客がエンゲージメント(=購入意欲やリピーター化)を高めるきっかけとなるベスト4





この表から何が分かるかというと次の通りだ。


  • 顧客がファンになる、買ってくれた理由で一番高かったのが「セールス体験」だった。

  • セールス体験で特に買う気になった理由としては、新しい気づきをもらえたこと、代替案を丁寧に解説してもらえたこと、予期できるリスクとその回避方法を説明してもらえたこと、深いレベルでの問題点とその改善方法や事例などを紹介してくれたことなどだった。


 つまり、優先的に強化すべきはブランド、サービス、コストパフォーマンスではなく、セールストークだということになる。セールストークというよりは、講義や議論に近いかもしれない。なぜなら、相手が無意識に信じている隠れた前提条件を言語化した上で、大胆にもそれをデータなどで覆す必要があるからだ。


この点に関して


  • 営業に要求される知的難易度が高いのではないか。

  • 信頼関係を構築しようというときに、相手を否定するようなことがあって良いのか。


など、批判の声が上がっている。


上記の批判に対して、著者からの反論としては次の通りである。


  • 高い知的難易度は要求されるかもしれないが、適切なトレーニングを積むことで経験や年齢関係なく習得できることはデータで示唆されている。

  • 御用聞きとして信頼関係を勝ち取るよりも、建設的な意図を持って相手の主張を崩し、より優れた解決策を提案できた時の方が質の高い信頼関係が構築できると考えている。


続いて行った研究は次の通り。


  • 世界中の営業部を10,000人分、さまざまな業種からデータを集めた

  • 年齢、性別、経験年数、知識、スキル、態度など55項目を併せて集めた

  • 営業成績下位20%は除外、経験期間が6ヶ月以下も除外

  • 営業成績と最も相関した項目を高い順に並べた


上記の手続きを経て、わかったことは二つ。


1:因子分析の結果5つのタイプにまとめられることが判明。


  • 勤勉型:延々と働き続けられる

  • 課題発見型:新しい視点でものを見ようとする

  • 課題解決型:顧客の御用聞き

  • 狐狼型:能力が高いがチームワークが苦手

  • 関係構築型:信頼関係の構築を得意とする


これら5タイプを成績別に分けると次の通りだ。





この表から分かることは次の通りだ。

  • 単純な環境であれば、どのタイプの営業でも商品は売れる。販売成績にそれほど差はない。

  • 複雑な環境であれば、課題発見タイプが最も販売成績が高い。

  • 複雑な環境の中で商品を売るには、それなりの知性や臨機応変さが求められるのかもしれない。



続いて、上位20%を占める優秀な営業部員の割合を割り出した表がこれだ。





この表から何が分かるかというと次の通り。

  • 上位20%を最も占めたのが、課題発見型であった。

  • 上位20%で最も少なかったのは、関係構築型であった。

  • 20%以下で最も多かったのが関係構築型だった。


以上のデータから結論としては次の通りである。


  • 関係構築のみに頼った営業スタイルだと、景気が好調で環境が単純な間は良いが、複雑な環境になってくるとほとんど機能しなくなる。顧客の立場としては「あんたと長年の付き合いだから言いづらいんだが、仲が良いからといって低コストで高品質の他社製品を使わない訳にはいかない。すまないが分かってくれ。こっちも苦しいんだ。」となる。

  • 関係構築そのものは重要であることは間違いないが、そこにプラスアルファでセールスを拡大させる新たな戦略を追加する必要がある。

  • 営業部、マーケティング部、その他に部門はお互いに濃い連携が必要となる。複数の追加検証で分かったことは、会社全体で「課題発見型」の営業のすり合わせを行うことが重要であるということだ。これを怠ったがゆえに、数多くの壁にぶち当たり、今まで通りの営業スタイルに戻ってしまうことが多かった。


*「課題発見型のセールステクニック」はこちらの動画で詳しく手続きを解説している。



また、2018年のインタビューでは次の通りの会話がなされている。



Q1 信頼関係の構築を蔑ろにするのはいかがなものか?


A1 「蔑ろにしろ」とはいうつもりは無い。むしろ、心理的安全性は必須の土台であるとさえ思っている。「氷解」のステージがまさにそうだ。そういう意味では、「チャレンジャーセールスモデル」の代わりに「信頼構築セールスVer.2.0」でも問題なかった。ただそれでは、認知的不協和を活用した議論の呼び水効果がなくなることの悪影響が上回ると判断した。基本的には、B2Bにおいて心理的安全性にのみ頼ったセールスには限界がある。プラスアルファが必要と言っているだけだ。


Q2 ハーバードビジネスレビューの「The End of Solution Sales」というのはとても扇動的だ。一体どういうことか。

 *元記事はこちらから:https://hbr.org/2012/07/the-end-of-solution-sales


Q2 このセールス手法は「相手がどんな課題を抱えているかを理解している」という前提が隠れている。例えば

  1. 「今何に取り組んでいますか?」

  2. 「夜遅くまであなたを悩ませる課題はどんなものですか?」

  3. 「今年中に終えなければならない課題はどんなものですか」

  4. 「あなたにとって重要なことトップ5はなんですか?」


 これら一連の質問は顧客が自分のニーズや課題を教えてくれることを前提にしている。それらを一通り聞いた後「話を聞く限り、XYZをすればあなたの課題は全て解決されるようですね!これなら我が社のサービスがお手伝いできますよ」という流れを予想している。これには問題点がある。


  1. そもそも難しい。販売員は思考の交通整理を完璧にこなせる前提だ。

  2. 顧客が不自然なほど数多くの情報を保有しており、それらを全て出し尽くしてくれるという前提。


 実際のところ、顧客は何を知らないかも分かっておらず、何が課題かも分かっていないことがほとんどだ。そういう意味では、解決策だけを出すsolution salesには限界があり、もう一歩踏み込む必要がある。それは「根底に潜む本当の問題」「原理原則の理解」などを紹介することだ。

 さらに付け加えると、solution salesには経験による熟達が必要不可欠である。言い換えると、solution salesの成績は経験年数と相関する。しかしチャレンジャーセールス(課題発見型)の場合、経験年数や勤務年数とはほとんど相関しないことが分かった。これはつまり、経験に依存しないスタイルであるということを示唆している。


Q3 心理的安全性は重要であると回答をいただいた。チャレンジャーモデルでは実際、信頼関係を結ぶことで成約が加速することは考えられるか?


A3

 そうだと考える。実際チャレンジャーモデルを活用している企業は、既存の方法よりも短期間で顧客(法人)の提供している価値をよく理解するようになったと聞く。顧客と販売員がお互いの価値を深いレベルにまで理解し合えている状態こそ、信頼関係と呼べるのではないだろうか。


 また、セールスは信頼関係も含め、細かいテクニックが少なくとも60種類近くはある。これらを全て使いこなせた方が良いだろうが、企業が持つリソースは有限である以上、費用対効果を考えた時に最も短期間に優れたセールスマンを育てるという視点で見れば「チャレンジャーセールス」の育成にベットした方がリスクは低いだろう。


Q4 LTVを考慮に入れていないことに関しての批判はどのように受け止めるか?車会社が行った小規模の実験では、問題点が色々と浮き彫りになった。問題点としては以下の点だ。

  1. 見込み客であれば良いものの、既存顧客に対しても価値観に挑戦をするためお互いに緊張感を生むことは避けられず戦略を実践するのは難しい。

  2. 既存顧客に対して継続して有意義な発見をもたらすのは難しい。

  3. 低価格重視の商品や顧客に対してはチャレンジャーモデルは有効ではない。


A4 正直に言えば、LTVを考慮に入れてデータを集めた訳ではない。なのでこれから話すのは事例などになるが、我々のデータによって新規顧客が増えるのみならず、セールスが伸び続けているという報告は多くある。これはまさしくチャレンジャーの資質が「探索、維持、発展」だからだろう。

 さらに事例報告によると、既存顧客に対しても効果を実感していると聞いている。


 また、顧客は自分の価値観を試されたいのか?と問われることはある。それに対する我々の回答は「もちろん」である。顧客は試されれば試されるほど、新たな気づきを得られているのでむしろもっと期待するようになる。

 また、新規顧客ハンター型と顧客管理型とで差はあるかどうかでも比較しても、統計的な有意差はなかった。つまり、新規獲得であれ、顧客管理であれ効果に差はないということだ。


Q5 意思決定に時間がかかる顧客に対してもチャレンジャーモデルは効果があるだろうか?


A5 問題は、なぜ彼らの意思決定がこれほどまでに遅いのか、ということだ。その理由は、通常、彼らの意思決定プロセスが非常に複雑であるためだ。

 誰が関与すべきなのか?どのような情報が重要なのか?このような複雑なプロセスの中で、顧客は「何をすべきか」だけでなく、「どうすればよいか」についても助けを求めていることがわかる。この辺りでも追加調査で数多くのデータが得られたのでいずれ本として出版する。


Q6 チャレンジャーの特徴として賛否両論あるのは、顧客との間に緊張感を持たせることだ。 これは人を不愉快にさせろということとどう違う?


A6

 販売の主導権を握るということは、迷惑をかけたり、攻撃的になったり、不愉快にさせることではない。この緊張感を生み出すことは、人を不快にすることではなく、顧客とビジネスについて知的な議論をすることだ。 優秀な営業マンは、顧客とそのような議論をすることができれば、そこに強力な方法で顧客を惹きつけることができると語っている。

 彼らが経験を通じて発見したことを私たちはデータで発見した。 彼らは、顧客の考え方に挑戦する必要があることに気づいた。 だから、チャレンジャーという言葉は、あえて選んでいる。

 しかし、他とのセールス手法との差は微妙である。微妙な差であれば、言葉で明確な線を引かなければ、その差は見過ごされてしまう。


ソース

  • https://www.researchgate.net/publication/271993211_Salespeople_as_knowledge_brokers_A_review_and_critique_of_the_challenger_sales_model

  • https://www.researchgate.net/publication/327702674_Challenger_sale_a_dynamic_method_for_customer_engagement_and_value_creation_in_business-to-business_relationships

  • https://www.researchgate.net/publication/327811390_Implementing_the_Challenger_Sales_Model_at_Carscom_a_case_study

  • https://hbr.org/2012/07/the-end-of-solution-sales

  • https://www.baylor.edu/business/kellercenter/news.php?action=story&story=126261

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